2017年12月9日土曜日

12/8 勉強会:賃上げ+投資に消極的で全租税適用NGも 他

1.有償新株予約権の会計処理が正式決定へ

■ASBJが検討中の実務対応報告「従業員等に対して権利確定条件付き有償新株予約権を付与する取引に関する取扱い」がほぼ固まった
・適用時期:平成30年4月1日以後 ※公表日以後の早期適用可
・会計処理
⇒従業員から払い込まれた金額=純資産の部に「新株予約権」
 企業が従業員から取得するサービス=その取得に応じて「費用計上」、権利の行使または失効が確定するまでの間、純資産の部に「新株予約権」
 権利行使され新株を発行した場合=新株予約権計上額のうち、当該権利行使に対応する部分を払込資本に振り替える
※平成30年4月1日より前に付与したものについては、注記を要件に従来の会計処理を継続できる

・その他
⇒適用初年度において、これまでの会計処理と異なる場合及び注記により従来の会計処理を継続する場合には、「会計基準等の改正に伴う会計方針の変更」として取り扱う
⇒遡及適用する場合の新株予約権に対応する払込資本の増加額は「その他資本剰余金」に計上


2.ポイントの未使用残高を未払計上で損金算入は可能か?

■論点
顧客の購入金額に応じて付与するポイントサービスについて、そのポイントに係る未払計上額(未使用残高の増加分)を損金算入出来るか

■審判所の見解
・ポイントを付与された顧客が当該ポイントを使用出来るのは、次回以降の会計時
・付与時において具体的な給付原因となる事実の発生は認められず、使用時において初めて具体的な債務が確定
⇒付与時において法人税基本通達2-2-12(債務の確定の判定)、9-7-3(金品交換費用の未払金の計上)いずれの要件も充足せず損金算入出来ない


3.賃上げ+投資に消極的で全租税適用NGも

H30年度税制改正において、H29年度に適用期限を迎える所得拡大促進税制につき、適用期限延長及び大企業向け限定でバージョンアップした制度が導入される予定

■ポイント
「賃上げ」と「設備投資」に着目
・積極的に行う企業は法人税の負担を引き下げ。
・消極的な企業は全ての措置法の適用が受けられなくなる可能性あり
⇒「大企業向け」の措置。賃上げのみでは×。あくまでも賃上げ+設備投資。

■優遇措置
・法人税率 ⇒ 現状未確定
・賃上げ ⇒3%以上の賃上げ

中小企業は現状の規定が存続される予定


4.仮想通貨の保有数量等を注記へ

■注記内容
<対象>
仮想通貨交換業者が期末日において保有する仮想通貨及び預託者から預かっている仮想通貨
<内容>
(1)貸借対照表価額の合計額
(2)「活発な市場が存在する仮想通貨」と「活発な市場が存在しない仮想通貨」の別に仮想通貨の種類ごとの保有数量及び貸借対照表価額

■理由
・価格変動リスクが外国通貨や金融資産と比べて大きい
・仕組み自体に消失、価値減少リスクが存在
・同じ種類の仮想通貨でも取引所によって価格が異なる
⇒投資家が仮想通貨の単価を把握できるようにするため

■適用
・H30年4月1日以後開始する事業年度の期首から適用
・早期適用も可


5.国家間での相互協議が進まず移転価格税制の処理が長期化

■相互協議が長期化
 相互協議とは、租税条約に適合しない課税を排除する為に条約締結国と解決を図るための手続き
 国税庁の発表によると、28年度の事案発生件数は162件、処理件数が171件となった。
 相手国との合意、納税者への対応が早まっているように見えるが、問題が長期化してしまい処理しきれずに繰越となってしまっている件数が約450件、また1件の処理にかかる期間が伸びているのが現状(24か月以内の処理を目指しているが、実際は28~30ヶ月を要している)

■長期化の原因は?
 国別繰越件数:米国25%、中国20%、韓国9%、インド9%、英国8%
 繰越件数の約4割がアジア圏であり、1件の処理期間も平均で36か月と長期化している
 相手国の経験不足、税務当局の人材不足が主な原因となっている。


6.グループ法人税制 実務の落とし穴 譲渡損益の繰延べ

■譲渡損益の繰延べ
完全支配関係のある内国法人間で譲渡損益調整資産※を譲渡した場合、譲渡法人でその譲渡損益を繰り延べる制度。譲受法人側で譲渡、除却等があった場合に譲渡損益を実現させる。
※固定資産、土地、有価証券等でその帳簿価額が1,000万円以上のもの
 
■ポイント
・帳簿価額:税務上の帳簿価額をいう⇒別表加算がある資産は加算後の金額となる
・棚卸資産は原則除くが、棚卸資産である土地は対象となる
・譲渡対価:時価により譲渡損益を計算する
・完全支配関係があっても外国法人は対象外
・完全支配関係がなくなった場合には譲渡損益を実現させる
・再譲渡先がグループ内であっても譲渡損益を実現させる⇒再譲渡先に制限なし
・100%グループ内の適格合併の場合には合併法人が繰延べられている損益を引き継ぐ


7.国税庁 質疑応答事例を更新し25事例を追加-内1つを紹介

確定申告書の提出期限の延長の特例制度について(原則の期限から最大2ヶ月)
■延長が認められるケースのポイント
・原則
延長を受けるには、定款に定時株主総会の招集時期が記載され2ヶ月を超える旨が明らかであることが必要
また税務署に届出を申請する必要がある

・定款に定時株主総会の招集時期の定めがない場合で、提出期限の延長の特例制度の適用可のケース
※前提として、議決権の基準日を設定する(召集時期は未設定)、定款変更が行われているケース
⇒議決権行使の基準日を定めた場合、基準日から3カ月以内に議決権行使
⇒3月決算法人が5月31日を基準日とした場合、総会は2ヶ月を超えることになる

1.定款変更議案の株主総会参考書類の「提案の理由」として事業年度終了後3カ月後に定時株主総会を招集することが記載
2. コーポレートガバナンス報告書の「集中日を回避した株主総会の設定」欄に事業年度終了後3カ月後に定時株主総会を招集することが記載
3.その他変更後の定時総会の招集月が明らかとなる書類(招集時期の変更を決議した取締役会の議事録など)が確認できる


8.適時開示

・上場会社はTDnetの「適時開示情報閲覧サービス」や自社のWebサイトで様々な情報を開示している
・主にPDF形式でアップされている
・開示する前にPDFファイルの「文章のプロパティ」に注意したい
・開示の内容とは無関係な情報が含まれたままアップされている例が散見された
・Web上で公開する前にプロパティ情報の確認が必要。


9.クロージング・PMI段階での留意ポイント

■クロージング段階における留意点
・第三者からの差止めリスク
⇒クロージング前に第三者との間で協議、問題を解消する必要あり
・独占禁止法上の排除措置命令リスク
⇒独禁法上の届出が必要な場合、届出期間が満了していること
・許認可の取扱い
⇒許認可の取得が短期間でできないケースを考慮
・労働者の取扱い
⇒労働条件の変更等の説明にどの程度の期間を要するのか等を事前に確認

■PMI段階における留意点
・役職員のリテンションプラン
⇒現金報酬と株式報酬をどのように組み合わせるか
・PMI時点におけるリスクアセスメントの実施
⇒リスクの洗い出し&リスク対応


10.子会社・関連会社の留保利益に係る繰延税金負債

■連結子会社の留保利益に係る税効果
1.配当受領を解消事由とする場合
・子会社の留保利益のうち、将来の配当により親会社において追加納付が発生すると見込まれる税金額を親会社のDTLとして計上
・ただし親会社が子会社の利益を配当しない方針を採っている場合など、配当に係る課税関係が生じない可能性が高い場合には税効果を認識しない

2.投資の売却を解消事由とする場合
・将来加算一時差異につきDTLを計上
・ただし親会社が投資の売却を親会社自身で決めることができ、かつ、予測可能な期間に売却を行う意思がない場合には税効果を認識しない

■持分法適用会社の留保利益に係る税効果
1.配当受領を解消事由とする場合
・持分法適用会社の留保利益のうち、将来の配当により追加納付が発生すると見込まれる税金額を投資会社のDTLとして計上
・持分法適用会社に留保利益を半永久的に配当させないという投資会社の方針がある場合等には税効果を認識しない

2.投資の売却を解消事由とする場合
・投資会社がその投資の売却を自ら決めることができることを前提として、予測可能な将来の期間に売却する意図がない場合には、税効果を認識しない


11.基本合意書締結段階での留意ポイント

■締結する理由
・当事者間の論点・争点の明確化
・スケジュールの明示・共有
・一定の事項について合意することで、成立の確度を上げる
・基本合意締結段階で公表する場合は、以後のDDが行いやすい
■適時開示
・原則、基本合意締結段階で開示
・例外として、一定の合意でしかなく、成立見込が立つものではない、公表することで成立に至らない場合は開示を行わないことも許容
※法的拘束力の有無だけで判断されない
■破棄した場合のリスク
・法的拘束力を付さなくても、相手方に損害を被らせないようにする信義則上の義務がある
・義務に違反して損害があれば、「契約締結上の過失」に基づく責任として、債務不履行責任等を負う可能性あり


12.M&A検討段階でのインサイダー情報管理とその他留意点

■事例分析
金商法違反事例の過半数はM&Aに絡むインサイダー取引によるもの
⇒インサイダー情報の管理の徹底を意識

■情報がインサイダー情報として成立するとき
⇒特定の機関がM&Aを決定したとき
※特定の機関:会社の実質的な意思決定機関であれば足りる
※正式な意思決定機関(取締役会等)による決定よりも前に、実質的な決定がされるのが通常
※決定:決定されたかどうかがポイントであり、M&Aの実現可能性は関係ない

■インサイダー情報の管理方法
徹底的な関与従業員の絞り込み(役員と所管部署の一部)

■その他留意点(1)
・M&Aが既存契約の相手方との関係で問題が生じないか(競業避止義務違反が実務上多い)
・M&Aが既存契約の解除事由(チェンジオブコントロール条項)がないか

■その他留意点(2)
・親会社が子会社株式を売却する場合、子会社の非支配株主を保護する配慮
⇒親会社が子会社株式を売却する場合、子会社は自身のDDに協力するのが通常
⇒but子会社に非支配株主がある場合、DD協力は子会社役員の善管注意義務違反を問われることあり


13.ガンジャンピング規制のポイントとその対応

ガンジャンピング
=M&A時に独占禁止法が一定の時期まで実行することを禁止している行為をフライングで実行してしまうこと。
企業結合/カルテル規制の2つの規制に対する違反があげられる。

■企業結合規規制
一定の要件を満たすM&Aにはクロージング前に競争当局(公正取引委員会その他海外競争当局)の承認が必要。
=競争当局の承認が降りる前に禁止行為を実行するとガンジャンピング該当。
※一定の要件=買主サイドの売上200億円超、売主サイドの売上高50億円超

■カルテル規制
クロージング前に競争上の機密情報の交換を行った場合等にガンジャンピング該当。

■具体的なガンジャンピング
・DD時に競争関係にある商品の販売価格や製造コスト等、競争上の機密情報を交換する(カルテル規制)
⇒一定の対応策を取れば、機密情報の交換が認められる(機密情報の受領者を当該事業に関与しない役員や外部アドバイザーに限定するなど)。
・競争当局の承認、クロージング前に調達価格を統一する(企業結合規制、カルテル規制)。
・クロージング前にシナジーを得るための投資を実行する(カルテル規制)。
・M&A当事者間の取引価格を独立当事者間における取引条件から乖離したものにする(企業結合規制)
・契約締結からクロージングまでの間の行動に対して、クロージングと同視される支配を対象会社に及ぼす誓約条項を設ける(企業結合規制)。
⇒「通用の業務の範囲」を制限するような誓約条項が該当する可能性がある(競争関係にない商品の新規取引実行時に承認が必要とする等)。



14.デューデリジェンス(以下、DD)実施段階での留意ポイント

■目的
M&Aを実施する際に売却対象事業等に内在する問題点を調査・検討する手続き

■記録の管理、売主側の情報開示
・買主側が要求した(開示されるべき)情報を売主側が提出していなかったという紛争が多い
⇒開示資料、インタビュー内容の記録の管理が重要
・近時ではVDRの設置が増加
⇒オークション形式のM&Aに便利

■情報の交換
・ガンジャンピングの問題
⇒情報交換に関するプロセスの透明化、適切な情報遮断措置の対応が重要

■買主における他社の営業秘密の侵害リスク
・売主から買主への情報開示により不正競争防止法上の営業秘密の保護が受けられなくなるリスク
⇒DDの過程で競合会社由来の情報が売却対象事業等由来の情報との混入を防ぐ管理措置及び競合対象会社由来の情報のみ提供させることができるかの確認が重要

■コンプライアンス違反の発見
・対象会社においてコンプライアンス違反の調査を受けている場合、事実を買主に開示することで、捜査妨害等に問われるリスク有
⇒発覚した段階でM&Aのプロセスを中断することが多い
⇒リスクを飲み込んででも実施したい場合は最終契約の中で対応者、課徴金や罰金等の負担割合の合意が重要


15.IPOマーケットの現状

・マザーズは市場第一部へのステップアップを視野に入れた成長企業向けの市場。
⇒ マザーズに上場して10年が経過すると、市場二部に変更するか、マザーズで上場継続かの選択が求められる。

・国内IPO件数はリーマン・ショック後の2009年に底入れ。
⇒ 2009年:19件、2010年:22件、2011年:37件、2012年:48件、2013年:58件、2014年:80件、
2015年:98件、2016年:86件、2017年(9月まで):58件

・最近のIPO企業の規模(売上:中央値)
⇒ 東証一部 1,074億円、東証二部 154億円、JASDAQスタンダード 63億円、マザーズ 19億円


16.監理銘柄・整理銘柄

・監理銘柄
上場銘柄が上場廃止基準に該当するおそれがある場合、その銘柄を一定期間、監理銘柄に指定して売買が行われる。

⇒上場廃止になると、証券取引所での売買が行われなくなるため、そうなる可能性が高い銘柄を投資家に周知させるのが主な目的

・整理銘柄
上場廃止基準に該当し上場廃止が決定した場合、整理銘柄として銘柄の売買が行われる。

⇒上場廃止になると流通性が著しく低下するため、投資家に注意を促すために設けられた制度
⇒上場廃止が決まった場合に、直ちに取引停止にすると投資家の売買の機会が著しく狭められてしまうため、原則として1カ月間整理銘柄に指定された後に上場廃止となる。









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