2017年9月16日土曜日

9/15 勉強会:サラリーマンに大幅増税? 他

1.平成29年度税制改正がM&Aに与える影響

■主な改正
・分割型分割における支配関係継続要件が見直し
⇒支配株主による分割承継法人に対する支配が継続することは要求されるものの、分割法人に対する支配が継続することは要求されなくなった
⇒子法人の特定の事業を整理することが容易になった
・100%子会社が親会社に対して分割型分割を行う場合
⇒移転した資産に対する親会社による支配が継続しているため、支配関係継続要件が要求されないことになった
※分割後における同一の者と分割法人との間の完全支配関係の継続が見込まれることは不要となった

■影響(筆者見解)
・オーナー企業において影響が大きいと考えられる
・一部の事業のみを買収する場合、「事業譲渡」「会社分割」が多い
 オーナー企業に対するM&Aでは「オーナー企業株式譲渡」が課税面で有利と言われており、採用が多かった
※ただし短期的な視点での課税しか考慮されていない点等、最近の実務では有利性について疑問が指摘され始めている
※特に不動産M&Aでは、不動産会社を購入したほうが不動産を購入する際に生じる不動産取得税および登録免許税の負担が生じない効果あり
⇒改正によって容易に税制適格要件を満たすことが可能となり、影響が大きいと考えられる



2.財務改善計画で子会社解散も、債権放棄額の損金算入を認めず

■訴訟概要
親会社である納税者がその企業グループの財務改善計画の一環として、子会社2社(A社・B社)の事業を別の子会社(C社)に譲渡した際に行った債権放棄額(10億円)の損金算入の可否について争われた

■訴訟論点
(1)法人税法基本通達9-6-1(4)「金銭債権の全部又は一部の切捨てをした場合の貸倒れ」
(納税者の主張)
・A社及びB社は実質的な債務超過の状態が3年間継続していること等から、本通達の適用により貸倒損失として損金算入可と主張

(裁判所の見解)
・債務者と債権者側の事情、経済的環境等の諸事情を踏まえた総合的な検討により、社会通念に従ってその金銭債権の全額が回収不能であることが客観的に明らかであるか否か判断すべき
⇒下記事由等を踏まえ、本件債権の全額が客観的に回収不能であったとは言えず、法人税法基本通達9-6-1(4)の適用はなく、貸倒損失として損金算入不可と判断

・A社は売上高が漸次増加し、預金も約5千万円存在している一方で、借入金は納税者及びその企業グループの法人を債権者とするものしかないこと
・B社は売上高約4億円・売上総利益3千万円の水準を維持し、借入金の大半は納税者を債権者とするものであったこと
・C社に事業譲渡後も事業継続と経費削減等により収益改善(約3千万円)が見込まれていたこと

(2)法人税法基本通達9-4-1「子会社等を整理する場合の損失負担等」
(納税者の主張)
・本通達の適用により寄付金には該当しない(損金算入可)と主張

(裁判所の見解)
・経済的な利益を無償で供与等したにもかかわらず、寄付金に該当しないと認められるのは、法人がより大きな損失を被ることを避ける為に客観的に必要な費用等であって、その費用としての性質が明白で、明確に区別し得るものである場合に限定すべき
⇒下記事由等を踏まえ、本件債権放棄が経済合理性の観点から特段の必要性があったとは認め難く、寄付金に該当しない(損金に算入する)ものとは認められないと判断

・債権放棄当時、A社及びB社は倒産の危機に瀕した状況に至っていたとは言えないこと
・債権放棄はメインバンクからの要請を受けたものではないこと
・A社及びB社の整理に際して、債権放棄しなければより大きな損失が生じるといった事情も伺われないこと



3.現物分配型スピンオフ税制の拡充を検討

現物分配型スピンオフとは、業績不振の子会社を切り離す目的で、子会社の株式を親会社の株主に現物分配し、親子関係を兄弟関係とする組織再編のこと。

H29年度税制改正で現物分配型のスピンオフ税制が導入。
主にスピンオフの準備段階で、親会社の事業を単独で新設分社型分割又は新設現物出資により子会社として切り出した場合に「税制適格」に該当する。

上記以外の手段(吸収分割)で親会社の事業を切りだす手法もあるため、H30年度税制改正でスピンオフ税制の拡充を検討中。


4.公募増資巡るインサイダー取引と認めず

■事案
・証券会社の営業員が上場企業T社の公募増資の情報を資産運用会社役員に伝達
・公募増資の発表前に役員がT社株式を売却
⇒課徴金納付命令を受けた役員が不当として提訴

■インサイダー取引とは
会社関係者等や第一情報受領者が上場会社等に関する重要事実を知りながら、公表される前に株式の取引を行うこと  

■高裁の判決
(国側の主張)
・営業員はアナリストや募集担当者と接触し、複数の断片的な情報を組み合わせることで公募増資の事実を認識している

(判決)
・アナリストの「(T社は公募増資を)やってもおかしくない」という発言は、公募増資の決定を伝えるものであるとは言えない
・募集担当者から営業員に情報が伝播した証拠もない
⇒営業員が重要事実を職務に関し知ったとは言えないので、インサイダー取引とは認められない


5.再エネ投資促進税制等

・再エネ投資促進税制
 グリーン投資減税(エネルギー環境負荷低減推進設備等を取得した場合の特別償却又は税額控除)が平成30年3月31日で適用期限切れとなる。経済産業省はこのグリーン投資減税を見直し、平成31年度末までの2年間の租税特別措置の要望を出している。

・現物分配型スピンオフ
 スピンオフ税制の拡充の検討が始まる。スピンオフとは、企業の一部を分離 独立させ事業展開を行うこと
 現物分配型スピンオフとは当該子会社の株式を親会社の株主に分配することにより親子関係から兄弟関係とする組織再編のこと

・新しい日本のための優先課題推進枠
 国税庁の別枠要求予算、KSK(国税総合管理)システムと集中電話催告システムを統合し、徴収事務の効率かを図る予算と、国税システムの改修費用を要望している。


6.残余財産と未収還付税金

■解散による期限切れ欠損金の利用
解散時において「残余財産がないと見込まれる」場合に利用可能

■残余財産がないと見込まれることの判定
⇒一般に実態BS(資産負債を時価で評価して作成したBS)において債務超過である場合が該当する

■未払法人税等及び未収還付税金の取り扱い
未払法人税等:期末時点で計上し、負債に含めた上で「債務超過」かどうかを判定する

未収還付税金:期末時点で計上し、資産に含めた上で「債務超過」かどうかを判定する
⇒源泉所得税が法人税から控除しきれない場合などは注意が必要



7.<税務相談>法人税《企業版ふるさと納税を社長の出身地の自治体に行った場合の適用の可否等》

■相談内容と回答
・寄附する市は、当社の社長の出身地であるというだけで特別の関係はない
・この場合その寄附金は会社が負担すべきではなく社長に対する給与であると認定されるようなことはないか?
回答⇒出身地の地方公共団体に対する寄附であっても会社が負担してよい

■考え方
・原則、寄附により設けられた設備を専属的に利用すること、その他特別の利益がその寄附をした者に及ぶと認められる寄附金は損金算入の対象外

・特定寄附金を受けた地方公共団体にあっては、寄附の代償として以下は禁止されているため、特別の利益はない
1.補助金を交付すること
2.低利貸付けを行うこと
3.入札・許認可において便宜を与えること
4.低廉価額で財産を譲渡すること
5.その他経済的利益を供与すること

・社長独断ではなく、取締役会などの機関決定をして、法人の寄附として支出するのであれば法人が負担して問題ない

8.未使用の商品券等

・百貨店などの小売業が自社で商品券等を発行した場合、現金受領額を負債計上する。
・長期間使用されていない商品券等に関する負債は、期限がないものでも負債の一部を取り崩し収益認識している。
・この収益認識した商品券等が将来利用された場合に備えて、過去の使用実績から「商品券回収損引当金」や「商品券等引換損失引当金」等の科目で引当計上する。
・収益認識の新基準案では、商品券の「非行使部分」は企業が将来において権利を得ると見込む場合(非行使で収益認識すると見込み場合)、顧客の権利行使のパターンに比例して収益を認識する。
 その他の場合は「使用される可能性が非常に低くなったと判断された時点」で収益認識する


9.長期請負契約に関する実務ポイント

■収益認識基準案での収益認識時点
・約束した財又はサービスを顧客に移転する
・財又はサービスの支配(≒資産を自由に使えて便益のほとんどすべてを享受する権利)を顧客が獲得する

■工事完成基準の原則的要件(いずれも満たさないこと)
・工事進行につれて顧客が便益を享受
・工事進行につれて資産が生じる又は資産の価値が増加、合わせて顧客の支配も拡大
・工事進行によって発生した資産は別の用途に転用できない、かつ、作業完了部分について請求権あり(強制力のある権利)
⇒いずれかを満たすと原則的には工事進行基準

■代替的取扱い
・重要性が乏しい場合、工事契約の期間がごく短い場合⇒完成基準でOK
・ただし、具体的な数値のバーはなし

■現状からの変化
・新基準の原則的取扱いによると現行工事完成基準によっている契約でも工事進行基準にしなければならい契約が発生する可能性あり


10.リコールをめぐる会計処理・開示のポイント

■引当金計上
・計上時期:引当金の4要件を満たしたとき
⇒当期以前に販売済みの製商品に安全上の問題等が発生したことを原因として、将来当該製商品を回収するために費用が発生する可能性が高く、その金額を販売数量や過去の経験値等に基づき合理的に見積もることができる場合

・金額:リコールへの対応に関する諸々の費用
⇒リコールプランに基づき企業が負担することが見込まれる回収費用、補修・交換費用等

■偶発債務の注記
リコール方法や対象数が明確になっていないため金額を合理的に見積ることが困難であるが、被害の質・重大性等を勘案するとリコールを実施する可能性が高く、将来において事業の負担となる可能性がある場合には、偶発債務として注記を行う


11.TMKの課税の特例

■TMKとは
・特定目的会社は、資産の流動化に関する法律(資産流動化法)に基づき資産の流動化に係る業務を行うために設立される社団法人。略称は、TMK(tokutei mokuteki kaisha)
■課税
・支払配当金は法人税上は損金不算入、ただしTMKの利益配当は一定の要件のもと、損金算入可能
⇒TMKは特定資産から得られた利益をそのまま投資家に配分するための機能のため、一定の要件のもと認めらる
・要件は大別して、対象法人の要件と対象事業年度の要件の2つ
・それぞれの要件を全て満たせば損金算入可能
・主な要件として、配当可能利益の90%超を配当する
⇒これにより、投資家に対する課税との関係上、二重課税が回避可能



12.BEPS防止措置実施条約の概要(上)

■目的
国際タックスプランニングによる、税源浸食及び利益移転(通称BEPS)を防止する「租税条約」に関連する措置を、締約国間の既存の租税条約に導入する。

■効果
租税条約は個々の国間で取り決める必要があったが、本条約の締約国間では、BEPS防止措置を、同時かつ効率的に実施することが可能になる。(※日本は2017年6月に署名)

■規定化されたBEPSプロジェクト
・行動02(ハイブリッド・ミスマッチの効果の無効化) 
・行動06(租税条約の濫用防止)
・行動07(恒久的施設認定の人為的回避の防止)⇒本記事では記載なし
・行動14(相互協議の効果的実施) ⇒本記事では記載なし

■BEPS行動2(ハイブリッド・ミスマッチの効果の無効化)の規定化
・第3条
両国で課税上の取扱いが異なる団体(透明体)から生じる所得について、一方の国で課税される場合は、当該団体をその国の居住者の所得とみなす。(二重非課税の防止)

・第4条
両国で居住者となる団体については、実質的な経済活動の場所等を鑑み、どちらかの居住者となるかを決定する。(二重課税の防止)

■BEPS行動6(租税条約の濫用防止)の規定化
・第6条
締結する租税条約の前文において、当該租税条約が租税回避・脱税を通じた二重非課税や税負担慶全の機会を創出するものではないことを共通明記する。



13.書面添付制度のメリット・デメリット

■書面添付制度
書面添付制度とは税理士または税理士法人に付与された権利で、申告書に以下のような項目を記載した書面を添付。
・申告書内容にどのような所見を持っているか
・会社からどのような税務相談を受け、回答したか

■書面添付制度のメリット
・税務調査の省略または効率化
⇒書面添付した場合、記載内容についての意見聴取が行われ、疑問点が解決すれば税務調査省略。
調査に移行した場合でも、論点整理等がされており、調査時間の短縮/負担軽減
・修正申告時の加算税回避
⇒意見聴取時に自主的に修正申告した場合、原則として加算税の対象とならない。

■書面添付制度のデメリット
・書面添付を継続しないと税務調査を誘発される
・記載内容により税務調査が誘発される

■書面添付制度の活用状況
低い


14.サラリーマンに大幅増税?

・自民党の宮沢税制調査会長が報道各社のインタビューに答えた。
・来年度の税制改正で、「給与所得控除」など、所得税の控除制度の見直しを検討する考えを示す。
・給与所得控除について、国際的に見て非常に高い水準となっていることや、サラリーマンと実質的に同じように仕事している自営業者に恩恵が生じておらず、格差があることを問題視。



15.内部監査実施上のポイント

(1)内部監査の対象部門
⇒社内全部署および全関係会社(実質的に支配の及ばない会社を除く)を対象。
⇒監査サイクルは原則として1年を1サイクルとして全監査対象部門の監査を実施。

(2)業務監査を中心とした内部監査の実施手続
⇒一定の品質確保のため、監査手続書を作成。
⇒監査項目は、経理業務、人事総務業務、職務権限等、内部牽制上必要な項目を網羅する必要がある。

(3)財務報告に係る内部統制報告制度のモニタリング
⇒上場会社に求められ、従前の業務監査・会計監査を主体とした内部監査に内部統制評価におけるモニタリング機能を追加。
⇒内部統制の整備・運用状況を検討、評価し、必要に応じて、その改善を促す。










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